刃物を握っているとき、ふっと怖くなる瞬間はないでしょうか。
私はありました。解体の途中、関節のところで刃が思ったように入らず、力を入れ直した瞬間に、刃が滑って手にいきました。手は血で濡れています。刃は研いだばかりです。条件が全部そろっていました。
そのとき分かったのは、手を切るのは切れ味が悪いときではなく、勢い余ったときだということです。丁寧にやっているつもりでも、抵抗が急に消えた瞬間に刃は行き先を失います。
いまは、その怖さがありません。手袋を1枚着けているだけで、滑っても皮膚まで届かないと分かっているからです。そして怖さが消えたぶん、作業そのものが速くなりました。
結論:解体とDIY、刃物を握る作業は全部これを着ける
使っているのは、Schwer の SlicePro という耐切創手袋です。着けている場面はこの2つです。
- 解体。刃を握っていない側の手に着ける
- DIY。のこぎりを使うとき
着けたから安全になった、という言い方はしません。着けていても防げない動きがあるからです。そこは後半に書きます。
1. 解体で着ける|滑ったときに、皮膚まで届かない
解体でいちばん手を切りやすいのは、内臓を出す工程だと思っています。
腹壁だけを切りたいのに、腸に届かないよう刃先の角度を気にしながら、しかも急いでいる。そこで手元が狂います。
手袋を着けるようになって変わったのは、作業そのものより、迷いが減ったことです。刃が滑るかもしれないと思いながらやると、力の入れ方が中途半端になります。中途半端な力でやると、かえって滑ります。
「滑っても届かない」と分かっていると、刃をきちんと入れられます。
着けるのは、刃を持たない側の手
両手に着けてはいません。包丁やナイフを握る側に着けると、握りが鈍ります。厚みのぶん、刃の角度が指先で分からなくなるからです。
そして実際に切るのは、たいてい刃を持たない側の手です。皮を引っ張る、脚を持つ、肉を押さえる。刃の進む先にあるのは、いつもそちらの手です。
2. DIYでも着ける|のこぎりは、手を添える側が危ない
猟だけの道具のつもりで買いましたが、いま出番が多いのはむしろこちらです。
のこぎりで木を切るとき、危ないのは持っている手ではなく、材を押さえている手です。切り始めに刃が跳ねて、押さえている指のほうへ来ることがあります。
いちばん多いのは、罠の自作で木を切るときです。猟期に入ってからも、傷んだ分を作り直したり、掛ける場所に合わせて寸法を変えたりで、のこぎりを握る時間は思ったより長い。そのたびに軍手ではなくこちらを出すようになりました。
軍手ではだめなのか
だめ、というより役割が違います。
- 軍手……木のささくれ、擦れ、汚れを防ぐもの。綿の布1枚なので、刃に対してはほとんど抵抗になりません
- ゴム手袋(ニトリルなど)……衛生のためのもの。切創には無力です
- 耐切創手袋……刃が滑ったときのためのもの。ささくれや汚れは別の話
私はずっと軍手で解体していました。いま思えば、あれは何も守っていませんでした。汚れが手につかないだけです。
3. 「切れない手袋」ではない|効く力と効かない力
ここが一番書いておきたいところです。
耐切創手袋は、刃を横に滑らせる力に対して強いものです。逆に、刃先を突き立てる力には強くありません。

繊維は横方向の力を受け止めますが、刃先が縦に入ると、繊維の目を割って通ります。耐切創の等級は、刺す力に対する強さを表したものではありません。
この手袋を着けていても、突き刺す事故は防げません。刃物は体のほうへ引かない、押さえている手の前方に刃を向けない、といった基本は着けていても変わりません。「これがあるから大丈夫」という使い方が、いちばん危険です。
4. この手袋のこと
メーカーの表示では、超高分子量ポリエチレンとステンレス鋼を複合した特殊繊維が使われていて、切創について EN 388:2016 のレベルF を表示しています。
狩猟で使ううえで効いているのは、次の点です。
- 食品グレードであること。肉に直接触れる作業で使うので、ここは外せません
- 洗って繰り返し使えること。解体で使う以上、毎回洗います
- グラスファイバーを使っていないこと。チクチクするタイプが苦手なら、ここは見ておく価値があります

買う前に知っておいたほうがいいこと
- サイズを合わせる。大きいと指先が余って、細かい作業でかえって危なくなります。S/M/L/LL があります
- 滑り止めではない。掴む力が上がる手袋ではありません。濡れた肉を掴む握力は変わりません
- 着けるのは刃を持たない側の手。包丁側にも着けると握りが鈍ります
- 消耗品として見る。レビューには、使い込むうちに繊維の当たりが気になるという声もあります。永久に使えるものではありません
Schwer SlicePro 防刃手袋 PR1501(レベル9耐切創)
解体で刃を持たない側の手に着けている。のこぎりを使うDIYでも出番が多い。滑ったときに皮膚まで届かないと分かっていると、刃をきちんと入れられるので、結果として作業が速くなる。食品グレードで洗えるのが、肉を扱う道具として大きい。突き刺す力には効かないので、そこは分けて考えている。
まとめ
- 手を切るのは、切れ味が悪いときではなく勢い余ったとき。抵抗が急に消えた瞬間が危ない
- 効くのは「滑らせる力」まで。突き刺す事故は防げない。着けていても刃を体へ引かない
- 解体よりDIYで出番が多い。のこぎりは、押さえている手のほうが危ない
手を切ると、その日の作業はそこで止まります。獲物の処理も止まります。止まらないために着けている、というのが一番の理由です。
ただ、着けてみて大きかったのはそこではありませんでした。怖くないので、手が止まらない。刃を迷わず入れられる。結果として、解体が速く、きれいになりました。1000円で買えるのは「守り」ではなく、手元の落ち着きのほうだったというのが、いまの実感です。
注意していただきたいこと
- 耐切創手袋は切創のリスクを下げるものであり、怪我をしないことを保証するものではありません。突き刺しには対応していません
- 製品の性能表示・使用方法・洗濯方法は、必ず製品の表示に従ってください
- 刃物の携帯・運搬・保管は、銃砲刀剣類所持等取締法および軽犯罪法に従ってください
- 狩猟は、狩猟免許および狩猟者登録を受けたうえで、鳥獣保護管理法その他の関係法令および各都道府県の定めるルールの範囲内で行ってください
- 野生鳥獣肉は中心部75℃で1分以上の加熱が必要です。生食は避けてください





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