鹿肉を焼くとき、何を見て「焼けた」と決めているでしょうか。
私は長いあいだ、見た目と、指で押した感触で決めていました。そして、ほぼ毎回焼きすぎていました。生焼けだけは避けたいので、迷ったら火を入れる側に倒す。その結果、皿に出てくるのは硬くてパサついた鹿肉です。安全側に倒すこと自体は正しいのに、うまさだけが毎回犠牲になっていました。
いまは、焼き上がりで迷いません。肉に当てる温度を先にダイヤルで決めて、出すときに中心温度を一度だけ測る。数字が出ていれば、それで終わりです。切って中を覗く必要がないので、肉汁も逃げません。
変えたのは焼き方ではなく、温度を「数字で持つ」ようにしたことでした。
結論:温度管理と言っても、押さえるのは入口と出口の2か所だけ
- 入口=肉に当てる温度。コンロのつまみは「強火・中火」としか言わない。庫内温度のダイヤルは、数字で言う
- 出口=肉の中心温度。ここは温度計でしか分からない。見た目と感触では、いまだに外します
- この2つが数字になると、「火加減」という曖昧な言葉が要らなくなる
1. ジビエは「中まで入れる」のが前提の肉だから、温度の話が避けられない
野生鳥獣の肉は、中心部を75℃で1分間以上(またはこれと同等以上)加熱する必要があります。レアで食べる選択肢がありません。ここが牛肉と決定的に違うところで、ジビエの調理は最初から「中心まで火を入れて、なお硬くしない」という条件付きの勝負になります。
この「同等以上」の中身が、温度と時間の組み合わせです。63℃なら30分、70℃なら3分、75℃なら1分。どれも同じ安全性として扱われます(内閣府食品安全委員会の資料で確認しました)。
ここで気づいたことがあります。この基準は、温度を数字で持っていない人には使えません。「中火で10分」は、この表のどこにも当てはめられない。基準のほうが数字で書かれている以上、こちらも数字で合わせにいくしかないということです。
同じ話は乾燥にも効いていて、ジャーキーを70℃で作れる理由もここにあります(→ 鹿肉ジャーキーは70℃で十分)。
2. 入口:庫内の温度は、ダイヤルで指定できる
フライパンは、表面を短い時間で仕上げるのが仕事の道具です。厚い鉄なら、置いた瞬間に温度が落ちないので焼き色が速い(→ 鹿肉がパサつくのは焼き方じゃなかった)。ただし、当てている温度が何℃なのかは最後まで分かりません。つまみに書いてあるのは火の大きさであって、肉に当たる温度ではないからです。
一方、外から一定の温度で包む形の道具は、温度そのものが目盛りになっています。私が使っているアラジンのグリル&トースターは、ダイヤルが100℃から280℃まで刻んであって、そこへ合わせるだけです。「弱め」ではなく「160℃」と決められる。これが、私にとっていちばん大きい違いでした。
決めたあとは、離れていられます。途中で強めたり弱めたりする判断が発生しないので、そのあいだに付け合わせを作れる。火加減を見張る必要がなくなったぶん、台所の段取りそのものが変わりました。
私が使っている4枚焼きにはグリルパンが付属していて、これも使っています。網に直接のせないので、出た肉汁がパンの中に残ります。庫内が汚れないぶん、次に焼くまでのハードルも下がりました。
「それ、オーブンでいいのでは」と思われるはずなので
温度を数字で決めたいだけなら、オーブンでも同じことができます。それでも私が、こちらばかり使っている理由は2つです。
ひとつは予熱。オーブンは、設定した温度まで庫内が上がるのを待たないと始まりません。数分から十数分、何もせずに待つ。この待ち時間が、「今日は鹿肉にしよう」と思ってから実際に焼き始めるまでの、いちばん折れやすいところでした。アラジンは待ちません。メーカーが「わずか0.2秒で発熱」とうたっている遠赤グラファイトのヒーターで、実際、予熱のために手を止めた記憶がありません。入れて、温度を合わせて、回すだけです。
もうひとつは、身も蓋もない話ですが、そもそもオーブンが台所にある家は多くありません。まわりを見てもそうです。鹿肉を渡した相手に「オーブンで」と言った時点で、たいてい話が終わります。ジビエの温度管理でいちばん効くのは、いま台所に置ける大きさのもので、温度が数字になることだと思っています。

アラジン グラファイト グリル&トースター 4枚焼き(AGT-G13B・グリーン)
もともとパンのために置いていた道具ですが、いまはジビエの温度管理でいちばん出番があります。やることは、ダイヤルを目当ての温度に合わせてタイマーを回すだけ。予熱を待たされないので、思い立った日にそのまま焼けます。「弱火の弱め」のような言い方をしなくてよくなったのが大きくて、うまくいった日も外した日も、温度と時間が数字で残ります。次に直せるのは、記録が数字のときだけでした。
3. 出口:中心温度は、測らないと分からない
入口を数字にしても、それだけでは終わりません。同じ庫内温度でも、肉の厚みと最初の温度で、中心に届くまでの時間はまるで変わります。もらった肉は部位も厚みも分からないことが多いので、なおさら時間では決められません。
だから最後は測ります。いちばん厚いところの、真ん中に刺す。浅く刺したり骨に当てたりすると、測っているのは肉の中心ではありません(→ もらった鹿肉、冷凍庫で止まっていませんか)。
温度計を使うようになってから、安全側にもうまさの側にも外さなくなりました。「たぶん大丈夫だろう」で焼き足す時間が、まるごと消えたからです。
ドリテック クッキング温度計(防水・デジタル)
私が使っているのは廃番になった前の型で、これは同じドリテックの現行品です。庫内の温度を決めるのが入口なら、これは出口の道具。2つ揃って初めて、焼き上がりを人に説明できる形になりました。片方だけでは、結局どこかを勘で埋めることになります。
ひとつだけ、この温度計が効かない場面があります。ジャーキーのように薄く切った肉には刺せません。数ミリの肉に刺しても、測っているのはほとんど庫内の空気です。塊の肉が温度計、薄い肉は状態で見る、と分けています。
表面が褐色に焼き上がっていても、中心が75℃に届いているとは限りません。いちばん厚いところの中心で測ってください。生食・半生は避けてください。
まとめ
- ジビエは中心75℃1分以上(またはこれと同等以上)が前提。基準が数字で書かれている以上、こちらも数字で合わせにいくしかない
- 入口は庫内温度のダイヤル。「強火・中火」ではなく「160℃」と決められると、途中で見張る判断そのものが消える
- 出口は中心温度計。厚みと初期温度で到達時間は変わるので、時間では決められない
いまは、鹿肉を焼くのが作業ではなくなりました。温度を決めて、あとは待つだけ。出すときに一度測って、数字が出ていれば皿にのせる。迷いがないぶん、食べる前から結果が分かっている——これが、道具を2つ足して手に入ったいちばんの変化です。
注意していただきたいこと
- 野生鳥獣の肉は、中心部を75℃で1分間以上(またはこれと同等以上)加熱してください。生食・半生は避けてください
- 「同等以上」の組み合わせ(63℃30分/70℃3分/75℃1分)は、内閣府食品安全委員会の公表資料によります
- 調理器具や手指は、生肉に触れたあと必ず洗浄してください。二次汚染を防ぐためです
- 加熱機器は本体が高温になります。取扱説明書の指示に従い、可燃物を近づけず、乳幼児の手の届く場所で使わないでください
- 捕獲した個体の肉を販売する場合は、食品衛生法に基づく食肉処理業の許可が必要です
- 狩猟は、狩猟免許および狩猟者登録を受けたうえで、鳥獣保護管理法その他の関係法令および各都道府県の定めるルールの範囲内で行ってください
- 本記事は運営者個人の使用記録であり、特定の道具や方法を推奨・保証するものではありません




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