「鹿 解体 ナイフ」で調べたことがあるでしょうか。
私はあります。そして、調べるほど分からなくなりました。皮を剥ぐ用、肉を骨から外す用、腹を裂く用。ひとつ調べるたびに候補が増えるのに、どれを1本目にすればいいのかは誰も書いてくれません。
先に結論を言うと、私は山に3本持っていきます。1本に絞れなかったのではありません。絞ると、必ずどこかが犠牲になるからです。そして犠牲になるのは、たいてい解体の切れ味のほうです。
3本に分けてから変わったのは、解体中に切れ味を気にしなくなったことでした。解体用の刃は、皮と肉にしか当てません。だから刃が落ちる理由が「切ったから」だけになり、いつ研ぐかで迷わなくなりました。
結論:3本を役割で分けている
- 止め刺し用(ブッシュマン)。切れ味より、距離が取れることと洗えること
- 解体用(バークリバー フォックスリバーⅡ)。ここだけは切れ味に振り切る。叩く仕事・こじる仕事には使わない
- 雑用(MOSSY OAK)。とことん雑に使う。これが解体用を守っている
それに防刃手袋が1双。順番でいえば、ナイフを増やすより先にこれです。
1. 山に持っていく3本と、その役割
同じ「解体で使う刃物」でも、求めているものが場面ごとに違います。並べるとはっきりします。

見てのとおり、3本は競合していません。1本にまとめようとすると、どちらかに寄せた妥協品になります。
2. 止め刺し用|ここは切れ味では選んでいない
止め刺しで効いてくるのは、切れ味ではありませんでした。
罠に大きい牡鹿がかかっていたとき、それまでの個体とはまるで違いました。角があって、体が大きくて、こちらを見ている。手を伸ばして届く距離に入ることが、はっきり怖いと感じました。柄を差せば槍として構えられるものにしておくと、相手を見てどちらでいくか決められます。
もうひとつが、終わったあとに洗えるかです。やっかいなのは刃ではなく刃と柄のあいだで、継ぎ目とハンドルの内側に血と脂が入り込むと流水では抜けません。継ぎ目のない構造だと、この工程がまるごと短くなります。
この1本は、こじっても地面に置いても気にしません。そういう使い方をする前提で選んでいます。
COLD STEEL ブッシュマン 95BUS
中空ハンドルに柄を差せば槍になり、そのままなら鉈のようにも使える。刃から柄まで一枚の鋼材で継ぎ目がないので、解体のあとに洗うのが速い。普通の砥石で戻る。ステンレスではないので錆びること、シャフトが付属しないことは承知のうえで使っている。

この1本を選んだ経緯と、錆びること・シャフトが別に要ることなど買う前に知っておきたい点は、牡鹿は槍にする|止め刺しのナイフをブッシュマンにした理由にまとめてあります。
3. 解体用|ここだけは切れ味に振り切る
3本のなかで、いちばん金をかけているのがここです。使っているのはバークリバーのフォックスリバーⅡ LT。アメリカ製の、いわゆる高級ナイフです。
皮を剥ぐのも、筋と肉も、これでスパスパいきます。
皮を剥ぐ、肉を骨から外す、筋を落とす。どれも力で押し切る作業ではなく、刃を滑らせる作業です。切れ味が落ちると、途端に力で押すことになる。そうなると何が起きるか。
- 皮に肉が付いてくる。薄く剥げず、身のほうを削ってしまいます
- 断面が荒れる。繊維を切らずに、引きちぎる形になります
- 手元が危なくなる。力を入れた瞬間に抵抗が消えて、刃が行き先を失う
つまり切れ味は、仕上がりの話であると同時に、安全の話でもあります。ここをケチる理由が、私には見つかりませんでした。
内臓を出す工程だけは、この1本と、後述する安いほうを場面で使い分けています。きれいに刃を入れたいところはこちら、汚れる場所や力のかかる場所は向こう、という分け方です。
高いものを買う意味は「刃持ち」と「戻ること」
いいナイフの価値は、買った日の切れ味ではありません。その切れ味が1頭のあいだ落ちないことと、研げばちゃんと元に戻ることです。
この1本の鋼材はCPM 3V。切れ味も靭性(欠けにくさ)も最高だというのが使っていての実感です。よく切れる鋼材は欠けやすい、というのが普通ですが、ここは両方あります。
とはいえ、その性能は使い方で簡単に台無しになります。骨に当てる、地面に置く、関節をこじる、背を叩く。一度やれば刃は欠けます。だから私は、この1本で叩かない・こじらないと決めています。
BarkRiver バークリバー フォックスリバーⅡ LT 3V ブラックキャンバスマイカルタ
3本のなかで、いちばん金をかけている1本。皮を剥ぐのも、筋と肉も、これでスパスパいく。そのぶん、骨にも地面にも当てない、叩かない、こじらないと決めている。そういう仕事は別の1本に回す。
4. 雑用の1本が、解体用の刃を守っている
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。
1頭を処理していると、刃物でやる汚れ仕事が必ず出てきます。私の場合はこのあたりです。
- 肛門まわりを切る
- あばらを割る。ナイフの背をゴムハンマーで叩きます
- 内臓を出す工程の一部。汚れる場所や力のかかる場所はこちら
- かぶった枝を払う、引っかかったものをこじる
この仕事は、係を決めておかないと自動的に「いま手に持っているナイフ」へ回ってきます。そしてたいてい、手に持っているのは解体用です。
だから雑用専門を1本入れています。使っているのはMOSSY OAK のシースナイフで、解体用とは値段の桁がひとつ違います。これをめちゃくちゃ雑に使っています。こじるし、地面に置くし、濡れたまま放り込むこともある。それでいい、というよりそのために持っているものです。
安く済ませるための1本ではありません。いちばん高い刃を守るための装備です。
MOSSY OAK アウトドアナイフ シースナイフ(フルタング・全長275mm)
汚れ仕事の係。肛門まわりを切る、内臓出しの汚れる場面、枝を払う、こじる。これを引き受けてくれるので、解体用の刃をそういう場面に持ち出さずに済んでいる。切れ味は求めていない。フルタングで安心して力をかけられて、シースが付いているので車から現場までそのまま運べる。
あばらを割るときに背を叩くのは、メーカーが推奨している使い方ではありません。商品ページにも「バトニングにはお勧めしません」と明記されています。私は折れても欠けても文句は言えない前提でやっているだけで、真似を勧めるものではありません。
5. ナイフより先に買ってよかったのは、手袋のほうだった
順番の話をします。1年目に戻れるなら、私はナイフを増やすより先に手袋を買います。
いちばん手を切りやすいのは、内臓を出す工程です。手は血で濡れていて、鹿の毛は滑って、刃は研いだばかり。条件が全部そろっています。私は実際に、関節で刃が入らず力を入れ直した瞬間に、滑らせて手にいきました。手を切るのは切れ味が悪いときではなく、勢い余ったときです。
いまはその怖さがありません。滑っても皮膚まで届かないと分かっていると、刃を迷わず入れられます。迷いながらやると力の入れ方が中途半端になり、かえって滑る。結果として、解体が速く、きれいになりました。
ちなみに軍手は代わりになりません。綿の布1枚で、刃にはほとんど抵抗にならない。ずっと軍手で解体していましたが、いま思えばあれは何も守っていませんでした。
Schwer SlicePro 防刃手袋 PR1501(レベル9耐切創)
解体では、刃を持たない側の手にだけ着けている。包丁を握る側にも着けると厚みで刃の角度が分からなくなるので、片手だけ。食品グレードで洗って繰り返し使えるのが、肉に触れる道具として大きい。罠の自作でのこぎりを使うときも、そのまま出番になる。
耐切創手袋を着けていても、突き刺す事故は防げません。繊維が強いのは刃を横に滑らせる力に対してで、刃先が縦に入ると繊維の目を割って通ります。刃物を体のほうへ引かない、押さえている手の前方に刃を向けない、という基本は着けていても変わりません。
効く力と効かない力の違いは、勢い余って手を切ってから、防刃手袋を着けているで図にして説明しています。
刃長6cmを超える刃物を、正当な理由なく携帯することは銃刀法で禁止されています。使用場所へはケースに収めて運搬し、車に積みっぱなしにしない。本数が増えるほど、ここは雑になりやすいところです。
まとめ
- 3本は競合していない。止め刺し・解体・雑用で、求めているものがそもそも違う
- 解体用は切れ味に振り切り、皮と肉以外に当てない。切れ味は仕上がりと安全の両方に効く
- 雑用の1本が、解体用を守っている。係を決めないと、叩く仕事も汚れ仕事も手に持っているナイフへ回る
本数が増えると管理は増えます。それでも分けているのは、解体中に切れ味を気にしなくてよくなるからです。手が止まらないぶん1頭が速く終わり、そのぶん肉が早く冷えます(→ 鹿肉が臭いのは肉のせいじゃない)。
1年目にいちばん高くつくのは、買ったナイフの値段ではなく、「1本で全部やろうとして、いい刃を潰す」ことだと思っています。役割を決めてしまえば、それは起きません。
注意していただきたいこと
- 刃物の携帯・運搬・保管は、銃砲刀剣類所持等取締法および軽犯罪法に従ってください。正当な理由のない携帯は禁止されています。刃物の販売は18歳以上に限られています
- 狩猟は、狩猟免許および狩猟者登録を受けたうえで、鳥獣保護管理法その他の関係法令および各都道府県の定めるルールの範囲内で行ってください。止め刺しの方法についても、各都道府県の定めに従ってください
- 耐切創手袋は切創のリスクを下げるものであり、怪我をしないことを保証するものではありません。突き刺しには対応していません
- 野生鳥獣の肉は、中心部を75℃で1分間以上(またはこれと同等以上)加熱してください。生食・半生は避けてください
- 捕獲した個体の肉を販売する場合は、食品衛生法に基づく食肉処理業の許可が必要です
- 本記事は運営者個人の使用記録であり、特定の道具や方法を推奨・保証するものではありません





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