罠に牡鹿がかかっていたときの話です。
それまでに獲っていた個体とは、まるで違いました。角があります。体が大きい。そして、こちらを見ています。近づけば届く距離に入るということが、はっきり怖いと感じました。
止め刺しの道具を「よく切れるか」で選んでいたのですが、そこで考えが変わりました。切れ味より先に、どこまで距離を取れるかで決まる場面があるということです。
結論:1本で「槍にもなるし、そのままナイフでもある」ものにした
いま使っているのは、COLD STEEL のブッシュマン 95BUS です。
選んだ理由は3つあります。
- ハンドルが中空で、枝や柄を差せば槍になる。距離を取りたい相手にはこれで詰める
- 刃から柄まで1枚の鋼材で、継ぎ目がない。解体のあとに洗うのが速い
- 普通の砥石で研げる。特別な道具が要らない
高級なナイフではありません。ただ、止め刺しと解体でやりたいことが、この1本の構造にそのまま入っていました。
1. 牡鹿は槍にする|距離が取れることが、そのまま安全になる
ハンドルの中が筒になっていて、そこに枝やシャフトを差し込んで固定すると、長柄の槍として構えられます。日本のフクロナガサと同じ考え方の設計です。
牡鹿のように、大きい個体や暴れている個体は槍にします。手を伸ばして届く距離まで入らずに済むからです。
暴れさせる時間が長いほど肉が傷むので、止め刺しは早いほうがいい。でも早くやろうとして近づきすぎるのは、話が別です。槍にすれば、そのふたつが両立します。
普通の大きさの個体なら、そのまま手に持って使います。毎回組み立てるわけではありません。相手を見て、どちらでいくか決めるという使い方です。
シャフト(柄)は付属しません。市販の木製シャフトを用意するか、現地で枝を切り出して使うことになります。買ってすぐ槍になるわけではないので、そこは織り込んでおいてください。
フクロナガサと同じ発想のもの
この「柄の中が空洞で、棒を差すと槍になる」という形は、ブッシュマンが考え出したものではありません。東北のマタギが使ってきたフクロナガサ(袋ナガサ)と同じ考え方です。獲物に近づかずに仕留めるという要求が、同じ構造にたどり着いています。
本物のフクロナガサは鍛冶屋の手仕事で、値段もそれなりにします。ブッシュマンは工業製品で、一万円を大きく下回る価格帯です。「その構造を試してみたい」という段階では、こちらから入るのは理にかなっていると思っています。
2. 継ぎ目がないと、洗うのが速い
これは買う前に想像していなかった利点でした。使ってみて一番ありがたいと感じているのは、実はここです。
ブッシュマンは、刃・タング・ハンドルが一枚の鋼材から成型されていて、継ぎ目がありません。ボルトも接着剤も使われていません。

解体をやると分かりますが、やっかいなのは刃ではなく、刃と柄のあいだです。継ぎ目とハンドルの内側に血と脂が入り込んで、流水では抜けません。抜けないまま乾かずに残ります。
その隙間が、この構造には最初から存在しません。洗いやすさが違います。肉を扱う道具なので、ここが楽なのは想像以上に効きます。
もうひとつ、同じ構造から来る利点があります。外れる箇所がないということです。ボルトも接着剤も使っていないので、叩いても、こじっても、抜けたり緩んだりする場所そのものが存在しません。血で滑る手で力をかける道具なので、ここが不安にならないのは大きいです。
逆に言えば、ハンドルに握りやすい素材が巻かれているわけでもありません。鋼材がむき出しです。快適さを買う道具ではない、というのは正直に書いておきます。

3. 研ぎやすさは、現場で効く
鋼材はSK-5という高炭素鋼です。ステンレスではありません。
普通の砥石で戻ります。特殊な形状でもないので、研ぎに特別な道具が要りません。これは現場で効きます。1頭やって刃がなまっても、その日のうちに戻せるからです。
刃の付き方はスカンジ系で、刃厚は2.4mm。薄すぎないので、こじるような使い方をしても不安がありません。
4. 買う前に知っておいたほうがいいこと
いい道具だと思っていますが、そのまま勧められる万能品ではありません。引っかかりそうなところを先に書いておきます。
錆びる
ステンレスではないので、錆びます。これは欠点というより仕様です。販売元も、使用後は水気を拭き取り、刃と中空部の内側に薄く油を塗って保管するように案内しています。使い込むと黒錆の皮膜ができて風合いが出る、という性質の鋼材です。
「濡れたまま車に放り込んでおける道具」ではない、とだけ理解しておいてください。
シャフトは別に用意する
前述のとおりです。槍にする前提で買うなら、差すものをどうするかまで含めて考えておく必要があります。中空部の内径には限りがあるので、太い丸棒がそのまま入るとは限りません。差すものは、現物に合わせて決めることになります。
シースは付いてくる
ハードシースが付属します。ファイヤースターターも付いていますが、こちらは狩猟で使う場面がほとんどないので、私は当てにしていません。刃長170mmのものを裸で持ち運ぶわけにいかないので、収めるものが最初から付いてくるのは実用的です。
生産国は中国
COLD STEEL の公式表示で、生産国は中国です。ブランドの出自と作っている場所が違うことを気にする人はいるので、書いておきます。私は使ってみて、この価格でこの構造なら納得しています。
刃長170mmは、持ち歩けない長さ
ここは軽く書けないところなので、独立させます。
刃長6cmを超える刃物を、正当な理由なく携帯することは銃刀法で禁止されています。刃長6cm以下であっても、正当な理由のない携帯は軽犯罪法に触れます。狩猟・農林業・キャンプなど正当な目的で使用場所へ移動するときに、ケースに収めて運搬してください。車に積みっぱなしにしない、使い終わったら降ろす、という運用が必要です。販売も18歳以上に限られています。
まとめ
- 相手が大きいときは槍にして、距離を取る。普通の個体はそのまま手に持つ。1本で両方できるのが選んだ理由
- 継ぎ目がないと、洗うのが速い。解体でやっかいなのは刃ではなく、刃と柄のあいだ
- 錆びるし、シャフトも別。そのぶん構造が単純で、普通の砥石で戻る
止め刺しの道具は、切れ味の比較で選びがちです。ただ実際にやってみると、「どこまで近づかずに済むか」と「終わったあと洗えるか」のほうが、毎回効いてきます。
COLD STEEL ブッシュマン 95BUS
中空ハンドルに柄を差せば槍になり、そのままなら鉈のようにも使える。牡鹿のような大きい個体は槍にして距離を取り、普通の個体はそのまま持つ。刃から柄まで一枚の鋼材で継ぎ目がないので、解体後に洗うのが速い。普通の砥石で研げるのも現場で効く。ステンレスではないので錆びること、シャフトが付属しないことは承知のうえで。
注意していただきたいこと
- 刃物の携帯・運搬・保管は、銃砲刀剣類所持等取締法および軽犯罪法に従ってください。正当な理由のない携帯は禁止されています
- 刃物の販売は18歳以上に限られています
- 狩猟は、狩猟免許および狩猟者登録を受けたうえで、鳥獣保護管理法その他の関係法令および各都道府県の定めるルールの範囲内で行ってください。止め刺しの方法についても、各都道府県の定めに従ってください
- 本記事は運営者個人の使用記録であり、特定の道具や方法を推奨・保証するものではありません
- 野生鳥獣肉は中心部75℃で1分以上の加熱が必要です。生食は避けてください






コメント