鹿肉はカツにすると化ける|背ロースを獲ってから皿にするまで

黒い皿に盛った鹿カツ ジビエを旨く食う
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鹿肉はパサつく。硬い。ジビエの話をすると、だいたいこのどちらかを言われます。

実際、焼き方を間違えるとそうなります。鹿は脂が少ないので、火を入れすぎると水分の逃げ場がありません。

ただ、脂の少ない鹿をいちばん確実にうまく食べる方法があると思っています。揚げることです。

猟期最後の春に獲った一頭の背ロースを、山から皿まで書きます。

猟期最後の春の一頭

罠は、どこにでも置けるわけではありません。獣が通る場所にしか掛かりません。

獣道。落ち葉と枯れ草の斜面に、獣が繰り返し通った踏み跡が一本の筋になっている
獣道

同じところを何度も通ると、落ち葉が掻き分けられて土が出ます。写真の真ん中に走っている筋がそれです。斜面のどこを通って、どこで足を置き替えるか。それを読んで罠を置きます。

読み違えれば、何日経っても何も起きません。ここが当たるか外れるかで、その週の結果がほとんど決まります。

くくり罠にかかった鹿。斜面の落ち葉と枯れ枝の上でこちらを見ている
見回りで掛かっていた個体

止め刺しをして、そこからが本番です。

山から出すところまでが猟

私は猟隊に属していないので、搬出もひとりです。脚にワイヤーを回して、引きずって出します。

正直、ここが一番きつい。斜面と倒木と藪があって、真っ直ぐには進めません。掛かった場所が良いか悪いかで、この後の一時間が変わります。

そして、この時間の長さがそのまま肉の状態になります。暴れさせる時間が長いほど体温は上がり、山に置いておく時間が長いほど質は落ちる。鹿肉が臭いのは肉のせいじゃないに書いたとおり、味の大半は台所ではなく山で決まります。

背ロースを外す

持ち帰って解体します。今回使ったのは背ロースです。

取り出したばかりの鹿の背ロース。表面に銀皮が張っている
背ロース。表面に張っているのが銀皮

背ロースは背骨の両脇に沿って走っている筋肉です。鹿のなかでいちばん脂がなく、いちばん柔らかい。運動量が少ない部位なので、繊維が細かいまま残っています。

銀皮を引く

写真で表面が白く光っているのが銀皮です。ここは加熱しても柔らかくなりません。

これを残したまま火を入れると縮みます。身のほうは伸びようとするのに、銀皮だけが縮むので、反り返って、噛み切れない一枚になります。

刃を寝かせて、まな板と平行に滑らせるように引いていきます。多少身がついてきても、残すよりはいい。ここを省くと、あとで何をやっても硬いままです。

なぜ焼かずに揚げるのか

理由は2つあります。

1. 衣が水分の蓋になる

鹿肉は脂が少ないぶん、水分が抜けるとそのまま味が落ちます。焼くと、逃げた水分は鉄板の上で蒸発して終わりです。

衣で包んでしまえば、中の水分は行き場を失って肉の中に留まります。脂の少ない肉ほど、この差が大きく出ます。

2. レアという選択肢が最初からない

ここが本当の理由です。

野生鳥獣肉は中心部75℃で1分以上の加熱が必要です厚生労働省の「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針」で示されている基準です。E型肝炎ウイルスや腸管出血性大腸菌、寄生虫のリスクがあるため、鹿肉・猪肉を生や加熱不十分な状態で食べてはいけません。飲食店で出されるジビエのレアも、これとは別の管理を経たものです。

つまり鹿肉には、牛のように「レアで食べる」という逃げ道がありません。中まで確実に火を入れることが前提になります。

そして、焼きでそこまで火を入れると、まず間違いなくパサつきます。ここが多くの人の「鹿肉は硬い」の正体だと思っています。ちゃんと安全に火を入れた結果、うまくなくなっている。

カツはこの矛盾を解きます。衣に守られているので、中心まで火が入っても水分が残る。レアにできない肉を、それでもジューシーに食べる方法がカツです。

170℃で約7分、中心75℃を確認する

ここは感覚でやりません。温度計を使います。

油は170℃。厚みにもよりますが、だいたい7分ほど。

そして上げる前に、いちばん厚いところに温度計を刺して、中心が75℃を超えているのを確認します。超えていなければ戻します。

揚がった鹿カツを黒い皿に盛ったところ
170℃で約7分

揚げ色で判断すると外します。衣がきれいに色づいていても中心が届いていないことはあるし、逆に、色を待ちすぎて入れすぎることもある。数字で見れば、安全側にも、うまさの側にも、どちらにも外しません。

中心温度

ドリテック クッキング温度計(防水・デジタル)

私が使っているのは廃番になった前の型で、これは同じドリテックの現行品です。使い方は単純で、揚げているあいだにいちばん厚いところへ刺して、中心が75℃を超えているかを見るだけ。これがあるかないかで、揚げ色を見ながら勘で決めるか、数字で決めるかが変わります。

わさびと塩、それからソース

まず塩とわさびで食べます。

背ロースは味が素直なので、最初の何切れかは余計なものを乗せないほうがいい。わさびは臭み消しではなく、香りを立たせるために使っています。

そのあとで、とんかつソース。ここでようやく「カツ」になります。同じ皿で二度楽しめるので、いつもこの順番です。

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まとめ

  • 味の大半は山で決まる。止め刺しから搬出までの時間が、そのまま肉の状態になる
  • 銀皮は必ず引く。残すと縮んで、あとから何をやっても硬い
  • 鹿肉はレアにできない。中心75℃まで入れてもパサつかせない方法がカツで、そのために温度計を使う

安全と法令について狩猟は、狩猟免許と狩猟者登録を受けたうえで、鳥獣保護管理法および各都道府県の定めるルールの範囲内で行ってください。刃物の携帯・使用は銃刀法および軽犯罪法に従ってください。野生鳥獣肉は中心部75℃で1分以上の加熱が必要で、生食は避けてください。また、自分で獲った肉を他人に販売する場合は、食品衛生法に基づく食肉処理業の許可を受けた施設で処理する必要があります。この記事は自家消費の記録です。

みや|猟師シェフ の道具棚猟と解体と調理で、実際に使い倒している道具だけを置いています

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