鹿を担いで山を下りて、家で服を脱いだとき。腕にゴマ粒みたいな黒い点がくっついていて、指でつまんでも取れない。
あれを初めて見たときの感触は、しばらく忘れられませんでした。
狩猟をやっていると、マダニは避けて通れません。鹿にも猪にも付いていますし、藪に入れば草の先で待っています。そして厄介なのは、咬まれてから気づくということです。痛くも痒くもないので、シャワーを浴びるまで分かりません。
結論:勝負は山に入る前についている
マダニ対策の話をすると、たいてい「咬まれたらどうするか」から始まります。でも実際にやることの大半は、家を出る前と、帰ってきた直後に集中しています。
私がやっているのは、この3つだけです。
- 肌を出さない服装にする
- 山に入る前に忌避剤を使う
- 帰ったらその場で全身を確認する
山の中でできることは、ほとんどありません。だから「入る前に終わっている」と書きました。
なぜそこまでやるのか:SFTSのこと
ただの虫刺されなら、ここまで気にしません。マダニが媒介する感染症があるからです。
代表的なものがSFTS(重症熱性血小板減少症候群)です。国内でも患者の報告があり、発熱や消化器症状が出ます。ほかにも日本紅斑熱やライム病など、マダニが運ぶ病気は複数あります。
怖がらせたいわけではありません。ただ、「刺されてから対処する」では間に合わない種類のリスクだということは、知っておく価値があると思っています。虫よけを使う理由がここにあります。
咬まれたあとに発熱や体調の変化があれば、必ず医療機関を受診してください。その際、マダニに咬まれたこと、いつ・どこの山に入ったかを伝えてください。潜伏期間があるため、山に入ってから数週間は体調の変化に注意してください。この記事は個人の対策の記録であって、診断や治療の指針ではありません。
1. 服装|隙間をなくすほうが早い
忌避剤より先に服です。物理的に入れなければ、それが一番確実だからです。
やっていること
- 長袖・長ズボン。夏場の見回りでも半袖では入りません
- ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れる。マダニは下から上に登ってきます。裾が開いていると、そこが入口になります
- シャツはズボンに入れる。腰から入られると発見が遅れます
- 首にタオルか手ぬぐいを巻く。首の後ろは自分で見えないので、咬まれても気づきにくい場所です
- 明るい色の服にする。黒い服だと、付いていても見えません
格好は良くないです。ただ、藪をかき分けて罠を見に行く格好に、そもそも見た目を求めていません。
2. 忌避剤|出る前に、露出した肌と裾に
服で隙間を塞いでも、手首・首・足首はどうしても残ります。そこに使います。
私が使っているのは、ディートが30%配合されたタイプです。濃度の低いものも試しましたが、山に入る前の一手間としては、こちらに落ち着きました。
サラテクトミスト リッチリッチ30(200mL)
山に入る前に必ず使う。マダニは刺されてからでは遅いので、ここだけはケチらないと決めている。ミストタイプで、手首・首・足首と、ズボンの裾まわりにかけてから家を出る。第2類医薬品。
この製品は第2類医薬品です。用法・用量および使用上の注意は、必ず製品の添付文書に従ってください。ディートを高い濃度で含む製品には年齢による使用制限が定められています(この濃度の製品は小児への使用が制限されています)。使用前に必ず添付文書をご確認ください。
使うときに気をつけていること
- 家を出る前にかける。山に着いてからだと、車から降りた時点でもう藪の中です
- 服の上からもかける。特にズボンの裾から膝下まで。ここが一番接触します
- 汗をかいたら塗り直す。効果は永久には続きません
- 顔に直接吹きかけない。手に取ってから、目や口を避けて塗ります
3. 帰ってから|脱ぐ場所を決めておく
ここが一番大事で、一番サボりやすいところです。
- 家に上がる前に、玄関か外で服を脱ぐ。部屋に持ち込むと、そこで落ちたマダニを後から見つけることになります
- 脱いだ服はそのまま洗濯機に入れない。乾燥機にかけられるなら熱を通すのが早いです
- すぐシャワーを浴びる。洗いながら全身を触って確認します。まだ咬みついていない個体は、この段階で流れます
- 見えない場所を鏡で見る。首の後ろ、脇の下、膝の裏、腰まわり、髪の生え際。マダニは柔らかくて薄い皮膚を選びます
面倒に感じますが、慣れると5分もかかりません。この5分をやらなかった日に限って見つかる、というのが正直なところです。
咬まれていたら|自分で引き抜かない
これだけは、はっきり書いておきます。
咬みついているマダニを、自分で無理に引き抜かないでください。口器が皮膚の中に残り、感染や炎症のリスクが高まります。皮膚科で除去してもらうのが確実です。ピンセットで引っ張る、火を近づける、薬品をかけるといった民間の方法は行わないでください。
「病院に行くほどのことか」と思うかもしれません。私も最初はそう思いました。ただ、除去してもらうこと自体はすぐ終わります。無理に取ろうとして口器を残すほうが、はるかに面倒です。
受診したときは、咬まれた日付と、入った山の場所を伝えてください。その後の経過を見るうえで必要になります。
まとめ
- マダニ対策の大半は、山に入る前と帰った直後に終わっている。山の中でできることは少ない
- 服で隙間を塞ぎ、残った肌と裾に忌避剤を使う。この順番が逆になりがち
- 咬まれていたら自分で抜かない。皮膚科へ。その後の発熱には注意する
猟期になれば、嫌でも藪に入ります。装備を変えるより、家を出る前の5分と帰ってからの5分を習慣にするほうが、結局は効きます。
注意していただきたいこと
- 本記事は運営者個人の対策の記録であり、診断・治療の指針ではありません。体調に変化があれば医療機関を受診してください
- 医薬品の用法・用量および使用上の注意は、必ず製品の添付文書に従ってください
- 狩猟は、狩猟免許および狩猟者登録を受けたうえで、鳥獣保護管理法その他の関係法令および各都道府県の定めるルールの範囲内で行ってください
山での扱いが肉の味を決める話は、鹿肉が臭いのは肉のせいじゃないに書きました。

コメント