鹿肉の部位別・失敗しない食べ方|ロース・モモ・スネで火の入れ方は変わる

「鹿肉をもらったんだけど、どう料理したらいいか分からない」

これ、かなりの頻度で相談されます。そして次に聞くのは、だいたい同じ言葉です。

「一回焼いてみたけど、硬くてパサパサだった」

気持ちはよく分かります。私も猟を始めた最初の年、もらった塊を全部フライパンで焼いて、全部失敗しました。牛肉と同じつもりで扱っていたからです。

ただ、これは腕の問題ではありません。部位と調理法が合っていないだけです。

結論:鹿は「部位ごとに別の肉」だと思ったほうがいい

牛や豚なら、多少部位を間違えても、脂が助けてくれます。焼きすぎても脂で誤魔化せる。

鹿にはその脂がありません。だから調理法を外すと、そのまま結果に出ます。

逆に言えば、部位さえ合っていれば特別な技術は要りません。私が言えることは、ほぼこの3行に収まります。

  • ロースは焼く。ただし火を入れすぎない
  • モモは薄く切る。塊のままステーキにしない
  • スネとネックは煮る。時間が全部解決する

以下、それぞれ理由と具体的なやり方を書きます。

その前に:加熱の条件だけは外せない

調理法の話に入る前に、これだけは先に書かせてください。順番を後にすると読み飛ばされるからです。

ジビエは生食・半生では絶対に食べないでください。野生の鹿や猪には、E型肝炎ウイルスや寄生虫が含まれている可能性があります。厚生労働省のガイドラインでは、食肉の中心部を75℃で1分間以上(またはこれと同等以上)加熱することが求められています。「新鮮だから」「うちの猟場は大丈夫」は理由になりません。加熱だけが確実な対策です。

これを読んで「じゃあレアはダメなのか」と思った方、そのとおりです。ダメです。

ネットのレシピには、鹿のローストをロゼ色に仕上げる写真がよく出てきます。飲食店で出てくるものもあります。ただ、あれは食肉処理施設で衛生管理された肉を、専門の設備と管理下で扱った結果です。家庭でもらった肉に、同じ前提を持ち込まないでください。

この記事で「火を入れすぎない」と書くのは、75℃に達したらそこで止めるという意味です。生に近づけるという意味ではありません。ここを取り違えると危険なので、繰り返しました。

ロース(背ロース)|焼く。到達したら止める

背中に沿って走っている、細長い塊です。もらいものの鹿肉で一番きれいな形をしているのは、たいていこれです。

鹿の中では最も柔らかく、繊維も細かい。素直に焼いて成立する数少ない部位です。

やること

  • 冷蔵庫から出して常温に戻す。冷たいまま焼くと、中心に火が通る前に外側が固まります
  • 表面の水分を拭く。濡れたまま入れると焼き色ではなく蒸し状態になります
  • 強めの火で外側に焼き色をつける。ここは短時間
  • 火を弱めて中心まで通す。中心温度を測って75℃を確認したら、そこで止める
  • 取り出して数分休ませる。切ったときに肉汁が流れ出るのを防げます

温度計を使ってください。見た目と指の感触で判断していた頃は、安全側に倒そうとして必ず焼きすぎ、結局パサつかせていました。温度を測るようになってから、この部位の失敗はほぼ無くなりました。安全と旨さを両立させる方法が、いまのところ他に思いつきません。

モモ|塊で焼かない。繊維を断って薄く切る

量が一番多く出るのがモモです。もらった肉が大きな塊なら、ほぼこれだと思って構いません。

そして失敗が一番多いのもここです。大きい塊なので、つい「ステーキにしよう」と思ってしまう。私も最初にやりました。噛み切れませんでした。

モモは筋肉としてよく動いている部位で、繊維が長くしっかりしています。塊のまま火を入れて厚く切れば、その繊維をそのまま噛むことになります。

やること

  • 繊維の向きを見る。肉の表面に走っている筋の方向です
  • 繊維に対して直角に、薄く切る。これだけで食感がまったく別物になります
  • 薄くしてから焼くか、しゃぶしゃぶのように湯にくぐらせる(このときも中心まで火を通す)
  • 迷ったらミンチにする。繊維の問題が消えるので、ハンバーグやそぼろ、カレーに使えます

「せっかくの塊肉をミンチにするのはもったいない」と思うかもしれません。ただ、硬くて食べきれずに冷凍庫の奥で忘れられるより、確実においしく食べきれる形にするほうがずっといい。もったいないのは、切り方ではなく食べ残すことです。

スネ・ネック|一番硬く、一番味が出る

スネは脚の下のほう、ネックは首です。筋だらけで、見た目にも硬そうで、正直あまり歓迎されません。

ただ、味という一点ではこの2つが最も濃いというのが、いまの私の実感です。よく動く部位ほど筋が多く、その筋がゼラチンに変わるからです。

ここは技術ではなく時間で解決します。

やること

  • 大きめに切る(煮ると縮むので、小さくしすぎない)
  • 表面に焼き色をつけてから煮ると、香りが立ちます
  • 弱火で長時間。目安は1時間半から2時間、筋が箸で切れるようになるまで
  • 赤ワイン煮、味噌煮込み、カレー。濃い味とよく合います

圧力鍋を使えば時間は縮みます。ただ、私は普通の鍋でゆっくり煮たほうが結果が好みです。ここは好みの範囲なので、お持ちの道具で構いません。

部位が分からないときの見分け方

ラベルもなく「鹿肉」とだけ言われて渡されることは、わりとよくあります。そのときは形と筋で見ます。

  • 細長くて筋が少なく、断面がきれい → ロース。焼いていい
  • 大きくて厚みのある塊、表面に薄い膜や筋 → モモ。薄く切る
  • 白い筋が何本も走っていて、明らかに硬そう → スネ・ネック。煮る

それでも判断がつかなければ、薄く切って焼くを選んでください。どの部位でも大きな失敗になりにくい、いちばん安全な選択肢です。

まとめ

  • 鹿肉は部位ごとに別の肉。硬い・パサつくの原因は、腕ではなく部位と調理法のミスマッチ
  • ロースは焼く/モモは薄く切る/スネとネックは煮る。この3つを守るだけで失敗はほぼ消える
  • 中心部75℃で1分以上の加熱は例外なし。ロゼ色の仕上がりを家庭で真似しない

鹿肉は、扱いさえ合っていれば本当においしい肉です。「ジビエは臭い・硬い」と言われてしまうのは、肉のせいではなく、扱われ方のせいだと思っています。

注意していただきたいこと

  • 野生鳥獣の肉は、中心部を75℃で1分間以上(またはこれと同等以上)加熱してください。生食・半生は避けてください
  • 解凍した肉の再冷凍は品質・衛生の両面で避け、解凍後は早めに食べきってください
  • 調理器具や手指は、生肉に触れたあと必ず洗浄してください。他の食材への二次汚染を防ぐためです
  • 狩猟は、狩猟免許および狩猟者登録を受けたうえで、鳥獣保護管理法その他の関係法令および各都道府県の定めるルールの範囲内で行ってください
  • ジビエを販売する場合は、食品衛生法に基づく食肉処理業の許可が必要です

みや|猟師シェフ の道具棚猟と解体と調理で、実際に使い倒している道具だけを置いています

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